「だーかーらー!ここはこうでここをこうしたら解けるでしょ?何回言わせるの?」

目の前には怒った顔だけど優しい目付きをしている瑛多。私のバカさにあきれている様子。
出来ないものは出来ないんだからしょうがない。

「だって出来ないもん。仕方ないじゃん!」

よりによって大嫌いな数学の問題だ。こんなままじゃ補習に合格しそうな感じじゃない。
そんな様子を察した瑛多が

「お前が補習に合格したら遊びに行こうぜ」

「いいけど、合格しそうにないよ?」

行きたくても合格出来ないのじゃもともこもない。頑張って勉強しようと思っても解き方がわからないのでは話にならない。

「そのために俺様が教えてやってるんだよ!」

そんなに私と遊びに行きたいのか……?

「なんでそんなに遊びに行きたいの?」
疑問をすぐに口にしてしまう私の悪い癖。
よく親に考えてから発言しろと言われるけどなかなか治らない。治したいとは思っても全然治らない。
「…なんでって、最近遊んでないからな、久しぶりにはいいだろ?」

困ったげに答える瑛多は新鮮だった。

「だからお前は早く解けるようになれ!」

そうだ!瑛多と遊ぶためには頑張って合格しなければいけない!ここは頑張れ日葵!


それから私たちは必死に勉強して応用問題も解けるようになった。復習もバッチリ!応用問題バッチリ!合格する自信しかない私たちは遊ぶときの予定を立てていた。まだ合格もしてないのに…このときの感じは懐かしかった。

いつもせっかちな私たち。まだまだ先の話をして盛り上がって行けなかったときにしょんぼりして悲しむ。学習能力が低くてそんなことを何回も繰り返してその度に落ち込む、そんなしょうもないことでもそれが楽しいからすぐに切り替えて次の予定を立てる。なんてポジションな集団なんだ。自分でもつっこむぐらいのバカ。

あの瑛多もそんなことをしていて幼なじみらしいと言えばらしい。長くいて似ていることがこんなことってありなのかとも思うけどありだ。私たちはそうやって過ごしてきたから私たちらしい会話。

いざ補習の日。自信満々な私は教室に入ってやいなや教材を開く。それは前の日に瑛多がくれた私の弱点をまとめたノート。この日のために瑛多が作ってくれたらしい。そこには私の嫌いな問題がたくさん書かれてある。昨日の夜にも解いて、今朝早起きをしてもう一回解いたからバッチリ!


テスト本番。配られた問題を見ると瑛多が考えてくれた問題が何個かあってラッキーだった。瑛多に感謝だ。他の問題も解いたことがある問題が多くて安心した。この様子だと合格も目前。必死に解いた。瑛多としたことを思い出しながら正確に解いていく。

テスト終了後。今まで以上に自信があった。こんなに自信満々なテストは初めてだ。いつもは終わってからハラハラしているけど今回はそんな感覚はなかった。

休み時間が終わっていざテストが帰ってくる時。これで瑛多と遊べるかが決まる。

「藤井。」

先生に名前を呼ばれドキドキしながら受け取りにいく。先生から予想外のことを言われた。

「よくやったじゃないか!いつものテストでもこれぐらい頑張れよ!」

ということは……
返されたテスト用紙には65と書かれていた。
やったぁ!合格した!
私は心の中でガッツポーズをした。
よし!瑛多に報告だ!

学校を出てすぐに瑛多の家へ向かった。

いつもは私が家に行くことが多いけど今日は私が瑛多の家に行った。久しぶりに瑛多の家のインターホンを押した。それから少しして玄関から瑛多が出てきた。

「どした?補習は?終わったのか?合格だったのか?点数何点だった?」

質問攻めな瑛多の目はキラキラしている。

「補習は終わったよ!点数はね……65点!!すごくない?頑張ったでしょ?」

自信満々に答える私を見て瑛多は不服そうな顔をしている。

「どうせならさ、もっと点取れよな!俺が教えてやったのにさ…。でもおめでとう。」

65点は瑛多の中では低いらしいけど私からしたら高得点。

「で?いつ遊ぶ?」

…どんだけ遊びたいんだ、この人。

「い、いつでもいいよ。」

瑛多の嬉しそうな圧がすごい。こんな人だったっけ?

「何したい?どこ行きたい?」

あの、あの、瑛多が人に意見を聞いている。これは凄い。俺様キャラな人が……
そんな急に言われても思いつかないや。

「うーん。今週末は?瑛多部活ある?」

テニスで忙しいからなかなか予定は合わなそう。

「ないよ。先週大会だったから今週はオフ!」

瑛多の唯一の休みを取っていいのかな…?
せっかくの休みを遊んでもいいのかな?
家でダラダラしたいんじゃないのかな?

「せっかくの休みをいいの?疲れてるのに遊んでもいいの?」

「お前からそんな心配の言葉が聞けるとはな」

心配ぐらい……知ってるから、瑛多のテニスへの愛を、いつも楽しそうにしてるのを、部活が終わって疲れてクタクタになって帰ってくるのを、
だからこそ心配してる。瑛多が壊れないか。

「私だって、心配ぐらいできるよ、そんなに冷たい人間じゃないし。そんな風に見える?」

「知ってるよ。日葵が冷たい人間じゃないことぐらい。優しくて、人の心が分かるってこと。」

なんかこんな瑛多は、普通じゃない。こんなキャラじゃない。でもこんな瑛多の悪くない。

「ま、決めといて。」

「分かった!!」

そして瑛多の家を後にした。