「今日もお仕事お疲れさんっと。」塾講師の仕事を終え車の鍵を指で回しながら、駐車場に止めてる車に乗る。今日で塾講師も辞めて、来月から、明光高校の教師だ。空きがあると教えてくれた親友に感謝だ。さあ、帰ろうとアクセルを踏もうとすると、スマホが震える。「こんな時間にどこの馬鹿だ?」スマホを見ると知らない番号。「はい、杉波です。」「おお、やっと繋がった。私だ。鳴神だ。」「鳴神叔父さん?久しぶりですね。」「すまんが今から海双亭に来てくれないか?」「何かあったんですか?」「砂上夫妻が事故死した。娘の真奈美ちゃんが一人残された。今引き取り手を親族会議でしているんだが。」「今すぐ行きます。」
海双亭。確か、柳の間だよな。ここか。「鳴神叔父さん、遅くなりました。」そう言って入ると、親族一同が俺の顔を見るなり、もの凄く嫌そうな顔をした。「おお、来てくれたか。」「で、どうなってます?」「うむ、それがな。」「おおかた、遺産が少ないか無いから引き取れませんって、そんな所でしょ?」「まあ、簡単に言うと、そんなとこだ。施設は、年が年だしね。」「こんだけ雁首揃ってもくだらねー言い合いか。俺の時にはうちに来いって五月蠅かったのにな。年だけくって役立たずの集団か。」そう言った時一人のオッサンが俺の胸ぐらを掴み、「クソガキが!黙って聞いてれば言いたい放題言いやがって!「・・な・・・ゃ。」「ハッキリ言え!」「離せやゆうたらはよ離せや!」俺の拳がオッサンの顔面にクリーンヒットした。オッサンが倒れる。「このクソ共が!引き取る気無いならはよ失せろ!もういい!俺が引き取る!」 そう言うと、親族一同がゾロゾロと帰った。残ったのは俺と鳴神叔父さんだった。「鳴神さん、何で残ってるんですか?」「呼んだのは私だしな。相変わらず、荒っぽいな。」「らちがあかないでしょ?あんな奴等だと。真奈美ちゃんは?」「そっちの部屋だ。私も帰るよ。」「ああ、連絡ありがとうございます。」
隣の部屋。隣の部屋のふすまを開けると、体育座りしていた。俺は、「(あの時と同じだな。)」と思い、しゃがんで話しかける。「君が真奈美ちゃん?初めまして?」「・・・。」「今日から俺が真奈美ちゃんの保護者になる。いいかな?」「・・・。」「まあ、いきなりだからしょうが無いか。」彼女が俺を見る。そして「名前は?」「杉波 稔。好きなように呼んでね。」「はい。」「じゃあ、はい。」俺は、タッパを渡す。真奈美は、不思議そうに「何、これ?」「タッパだ。」「見ればわかりますけど、なにに使うの?」「隣の部屋の料理が晩飯だ。早く詰めなきゃ食いっぱぐれんぞ。」そう言った瞬間真奈美がいきなり笑い出した。「ヤバイ!お腹痛い。会った瞬間タッパ渡す人初めて見た!」「いいからさっさと詰めろ。」
車に戻り、「今日から俺の家が真奈美の家だから。学校近いから転校し無くていい。」「はい。でもどうして私を引き取ったんですか?」「何?不満でも?」「いえ、でも会った事も無い私をどうしてかなって。」「真奈美の両親に恩があるからかな。」「恩?」「なにも出来なかった俺が子供の時にいろいろと気にかけてくれた。」「そうだったんですか。あのご両親は?」「死んだ。飛行機事故で遺体も残らなかった。」「すみません。」「別にいい。何年も前の話しだ。なあ、もう泣いていいんだよ。」「別に泣きたいわけじゃ。」俺はそれを遮って「両親が死んで悲しまない分けないよな。我慢してたんだろ?ここには俺しかいないから、我慢しなくていい。」少しして、真奈美は泣いた。泣きまくった。「なあ、もし辛くて一人で抱えきれないなら、俺にも抱えさせてくれ。そうすれば半分・・・位は支えてやれるから。」「杉波さんは、大丈夫だったんですか?」「両親の事?もうとっくの昔に乗り越えてる。」「・・・。」「ああ、これからの決まり事。あまり、嘘はつかない、遠慮しない、男を連れ込まない。ok?」「はい。」「よし。」「あの、本当にいいんですか?私、可愛くないですよ?」「真奈美は、今のまま、十分可愛いよ。」話してると家に着いた。「今日からここが真奈美の家だ。」「お邪魔します。」「違うだろ。帰ってきたら?」「ただいま?」「正解♪お帰りなさい。」そう言うと、真奈美は、一筋涙を流し、笑った。