レイラ嬢が馬車に乗り、見送りを済ませると痛いほどの視線を頭上から感じた。目を合わせれば面倒臭い事になりかねないので気付かないふりをして踵を返した。


「っ_!? おい!」


痺れを切らしたフレイムに頭を引っ叩かれた。俺にこんな事をするのはこいつくらいだ。


「『おい!』ではないだろう!? なんなんだお前のあの態度は!? あれでは誤解をされても文句は言えんぞ!?」

「あの態度とは何のことかわからないな」

「お前という奴は……大馬鹿者だな!!」

「口出ししないんじゃなかったのか?」

「ほぉー……という事は私が何の事を言っているのか分かっているという事だな!? お前は政治や戦に関してはピカイチだが、恋愛に関してはまるで赤子だな!」

「ッッ__」


言い返す事ができなかった。ほぼほぼその通りだからだ。

レイラ嬢にはただ婚約者に、と望んでいる人がいないのか聞きたかっただけだ。それなのにあんな試すような聞き方をしてしまった。歩きながらあんな事を言うんじゃなかった。せめてお茶にでも誘って落ち着いて話をするべきだった。

執務室に行くとロレンソとルシオが既に居て、フレイムは怒りが収まらないのか二人にも話をしてしまった。


「お前は馬鹿なのか?」

「貴方は馬鹿なんですか?」


そう言うだろうと思った。

呆れた視線を感じながら書類に判子を押した。いつもはなんとも思わない音も、今は驚くほど大きく感じた。


「書類仕事をしている場合ではないでしょう?」

「間違いねぇ!」

「じゃあどうしろと?」

「今すぐ手紙を書くべきだ」

「プレゼント送れよ」


ロレンソは手紙を書けと言い、ルシオはプレゼントを送れと言い、結果フレイムがまとめるかのようにどちらもやれと言ってきた。


「婚約者がいる僕たちの方がアレクよりも恋愛の経験値は上だ。 つまりこの件に関しては僕たちの意見を聞くべきだ」

「女って生き物は怒ると別人みてーに怖いんだからな!?」


別にレイラ嬢を怒らせたわけではないが、今は口を挟まないでおこう。余計に面倒臭い事になりそうだ。

今は急ぎの仕事はないだろうと、強制的に便箋を渡された。レイラ嬢へ送る手紙の内容…書類仕事よりも難しい。

手紙の内容もそうだが、情けない事に贈り物を決めるのにも数日かかってしまった。