「唯」
突然、湊都から発せられた低い声にビクッと肩を震わせる。
ふと見ると、先ほどまで窓の外に向けられていた視線が、こちらを向いていた。
「あぁ、ごめん、時間だね」
湊都の目線の先には、先ほど私のことを助けてくれた黒髪紳士。
唯という名前らしい彼は、時計を見るとゆっくり立ち上がった。
「えーっと、ごめんね、遥香ちゃん?俺たちもう行かなきゃ」
驚くほど優しい声とニセモノみたいに優しい笑顔。
唯に続いて、金髪男と、茶髪ロン毛、そして湊都も立ち上がる。
もう誰も、笑ってなどいなかった。
全員、鋭い目つきで何かを考えている。
一瞬にして、冷たい空気が”ファミレス”という生暖かい空間を駆け抜けていく。
そんな感覚に襲われた。
