その頃の未来と春樹は。
(まんまとやられた…朝陽。あの野郎…)

俺、春樹は戸惑いが隠せずにいた。
未来と2人きり。
幼馴染といっても、一応俺の好きな人。
この場で嫌われないようになんとかしなければいけないわけで。

「未来、何したい?」

「別に何も」

(あー!もう馬鹿!なんで素直に言えないの。プリクラ撮りたいとか、買い物したいとか)
私、未来はこの状況を脱したい。
できることなら、春樹との距離を縮めたい。
なのに、言葉が出てこない。
(きっとまた愛想悪いって思われた…)

「もう!ここに止まっててもあれだからあっちいこ!」
ビッ
(え、足痛い…なに、めっちゃ痛い)
足に痛みを感じ、立ち止まった私。

「どうした、未来」

「…ん?何でもないよ、行こっ!」
そう言って歩き出したその時、

肩を掴まれ、
「そこのベンチまで歩くぞ」
(え…)

「馬鹿だな。お前いつも無理する時は左の口角だけ上がるんだ」

「なんでそんなのわかんの」

「わかるよ、何年一緒にいると思ってんの」

いつもいつも無理すると、春樹だけが気づく。
同級生や先生は期待ばっかりして助けてくれない。
『さすが未来ちゃん』『未来さんは頼りになるね』と言うだけだ。
だからこそその『さすが未来ちゃん』という重圧をかけられ、生きてきた。
その重圧を軽減してくれたのは春樹の存在だ。

「未来こっち向いて」

「え」
パシャッ
「親に送っとく」

「あ、うん。そだね」

「…まあ、送んなくてもいいか。俺らだけが知ってればいい思い出だし」

「え、」
ポンッ
春樹の手がそっと私の頭に触れる。
「前も言ったけど、俺は子供扱いでこんなことしてるわけじゃねえんだよ」

「…春樹?」

「っ…なんでもない」