「そんな暗い顔しないの。リリカ、笑顔よ。にっこり笑うの。笑えば幸せになれるんだから」

「……そうなの?」

「そうよ。どんなにつらくても悲しくても笑顔でいるの。泣いちゃダメ。泣いたら幸せがふわって逃げてっちゃう。だから、笑いなさい。幸せになりたいなら笑っていなさい」

「うん……」

「じゃあ、行ってくるから!またね~!」

母が家を出て行ってから帰ってくるまでの3日間。あたしの胃の中に入ったのは学校の給食と家にあったスナック菓子だけだった。

授業中もグーグーとお腹が鳴って授業に集中できず、頭痛までしてきた。

母から連絡は一切ないし、2日後にあった親子レクレーションには母だけが来なかった。

そんなのはどうだってよかった。正直、一人でいることには慣れていたから。

ただ、3日後にべろべろに酔っぱらって家に帰ってきた母が3日間の愚痴をまき散らしたことにあたしは呆れと絶望に打ちひしがれた。

「でさ、アイツが子持ちは嫌だって言うのよ。まあ、あたしもいってなかったけどさぁ、そこらの独身女よりあたしのほうが絶対に美人だと思うのよ。ねぇ、リリカだってそう思うでしょ?」

母の話から察するに、旅行の最終日に男に子持ちということをカミングアウトしそれを理由に振られてしまったようだ。

「あーあぁ、リリカなんて産まなければよかった。そしたら、あたし、幸せになってたのに」

「お母さん、そんなこと言わないでよ」

「うえっ……なんか気持ち悪い……。うぅっ」

床に吐しゃ物を書き散らして寝転ぶ母を介抱しながらあたしは笑った。

母が誰かと一緒に数時間前に口にした一度は胃に入ったドロドロの何かが手についた。

薄汚れてしまった自分の手をぼんやりと眺める。