「うふふ、すごいわね、これ」



お母さんはそういって立ち上がり、何気なく、袖で涙をぬぐったのを私は見逃さなかった。



そのまま、お母さんはゆっくりと直哉の方へ向かい、2,3度直哉の肩を叩いてから中庭を出ていく。


その後を追うように、姉ちゃんと渉さんも中庭を出ていった。



そして、ケントさんが私に何やらウィンクを飛ばして、同じように出ていく。


立花さんもその後を追った。



ということは、ここは私と直哉だけになったということだ。


あの様子からして、皆わざと私たちだけ残したのだと思うけど。



直哉がゆっくりと私のほうに近づいてきて、さっきまでお母さんが座っていた席に腰かけた。



「直哉が、作ったの?」



気づけば私から話しかけていた。



「ああ……。お前の母ちゃんから生前のお父さんのいろんな資料借りて、プログラミングして、またそれをAIに組み込んで作った。本物のお前らの父親の思考を組み込んだ最先端のAIだ。……まだこの世界にはない技術だから、このことは秘密な。あとで、あの3人にも言っておく」


「なんでまた……そんな大掛かりなこと」


「……知りたかったんだ」


「何を」


「前、花蓮さんから聞いてた。お前が泣かなくなった時があったって」


「……ああ」


「その理由をお前のお父さんのことについて知ったらわかるかなと思って」


「それで、わかったの?」


「甘えるの、下手くそなんだろ」


「ちょ、言い方」



私たちの頭上には、満天の星空らが広がる。


お互いの顔が昼間より見えない分、話しやすかった。


気づけば私は声に出して笑っていた。



「正解?」


「言わない」


「じゃ、正解ってことだな」


「勝手に思ってな」



ねえ、直哉。



お願いだから今こっち向かないで。


ずっと、空を見ていて。



「……來花」


「……何」


「付き合おう、俺たち」


「……っ!」



横を向いたら、ばっちりと、直哉と目が合った。


そして、直哉は何も言わずに、自分の服の袖で私の涙をぬぐった。



「返事は?」


「なんで?」



私たち、どうせ、離れ離れになるのに。


もうその時まで1か月あるかないかくらいなのに。



「なんでって……好きだから」



直哉は真っすぐと私の目を見てくる。



「そんな」



そんな、残酷な。



「一生分の恋をしよう」


「え?」


「ほかのカップルが、夫婦が一生かけて得るもんを、得る気持ちを1か月でやる」



何言ってんだ。



そう思ったけど、あまりにも直哉が真剣だから、ふざけてるわけではなさそうだった。


だからだと思う。



「うははっ」



思わず笑ってしまった。



「人が真剣に話してるんだけど」


「ごめん、ごめん」


「あ、子ども作るのは悪いけどなしな。お前まだ高校生だし」


「当たり前だバカ!」



そんなこんなしている間に、私の涙はすっかり乾いていた。



どうやら私は素直に甘えられる人を見つけたらしい。


気持ちの切り替えが完了したようだ。



お父さん。



私、幸せになれそうだよ。



こんなにも、私のことを好きだと、思ってくれる人が隣にいる。


これでお父さん願いはかなえられたかな。



「それで、返事は?」



直哉が私を急かす。



「いいよ、一生分の恋を1か月でしよう」



私がそういった瞬間、口元を塞ぐように直哉からキスが落とされた。




夜空が今日はなんだか私には優しく感じた。



それはきっと、天国から、晩客でもしながら、お父さんが私たちのことを眺めていたからかもしれない――――。