そこには私たちの良く知っているある人物が等身大で映し出された。
その映像に、隣に座っていた、お母さんの頬に一滴の涙が光ったのがわかった。
「……お父さん」
そこには、あの時のお父さんがいたんだ。
『はは、母さん。何泣いてるんだよ。子どもたちがいる前で』
母さんのことが見えるのだろうか。
お父さんは、あの時と変わらない、くしゃっとなる笑顔で私たちを見てくる。
『花蓮、大きくなったな。隣の人は、お前の旦那さんか?』
お父さんの問いかけに、姉ちゃんは目をまん丸にしながらも、ゆっくりとうなずいた。
その目には、涙がたまっていることを私は見逃さなかった。
『名前はなんていうんだ?』
「……はじめまして。渉といいます」
『渉くんか。俺の息子というわけだな。……はは、一度飲みかわしたかったな。それができなくて残念だ。花蓮は、そこら辺の男よりも男勝りだけど、どうか、よろしく頼む』
お父さんは、そういって深々と頭を下げる。
渉さんも、お父さんに負けないくらいに深々と頭を下げた。
『そして、來花』
「……何?」
みんなが泣きそうになってるのに、私は涙が出る気配もなかった。
『悪かったな』
お父さんがかけてきた言葉は意外なものだった。
「何が?」
『お前を迎えに行けなかった。待っててくれたんだってな』
「……いいよ、そんなこと謝らなくて。怒っちゃいないから」
『本当は、自分のせいで、お父さんが亡くなったとか思ってるんじゃないかと思ってな』
「……っ。そんなこと」
お父さんが亡くなった時、お母さんはわざと、お父さんが亡くなった場所を教えてくれなかった。
それを知ってしまうと、私がショックを受けると思ったのだろう。
だけど、そんな事したって、葬式の時みんなが言っていたのを、私は聞き逃したりしなかった。
――――お父さんが亡くなったのは、お父さんがいつも私を迎えに行くときにだけ通る交差点だった、ってことを。
『來花』
お父さんが私の名を呼ぶ。
私はお父さんの目をしっかりと見た。
『よく聞け。お前が悪いんじゃない』
「そんな……」
そんなこと、いまさら言われたってさ。
あの時きめたんだ。
この気持ち、一生背負ってくって。
小さな体で決めたんだ私。
『お父さんのお願い聞いてくれるか?』
「お願い?」
『ああ、一生に一度のお前へのお願い』
「……いいよ」
『幸せになれ、來花』
「……っ!」
『お前が苦しむのなんて、お父さんは望んじゃいない。悪いのはお父さんを引いたあの運転手だから。お父さんもお母さんも、お前のお前たちの幸せしか望んじゃいない。だよな、母さん』
お母さんが隣で激しく頷くのがわかった。
『本当はいるんだよな。來花を幸せにしてくれる人が。來花、お前も本当はそれが誰なのかわかってるんだろ?』
そう言って、お父さんは、私から、直哉たちがいるほうへと視線をずらした。
姉ちゃんがとなりで「やっぱり」といった声が聞こえた。
『ま、ここまでしてお父さんをこうして作りあげたやつだ、來花のことを大切に思ってくれてるのは伝わってくる。ありがとうな』
お父さんはそういって、直哉たちのいるほうへ頭を下げた。
3人は、軽く頭を下げる。
『さて、もうお別れの時間らしい』
お父さんを映し出していた光が徐々に弱くなっているのを感じた。
『最後にだ。母さん』
「何?」
『ここまで娘たちを立派に育ててくれてありがとう。大変だっただろうにな』
「そんなことないわ。楽しかったわよ。まだまだ、足りないくらい」
『はは、お前のことだから、そういうとは思っていたがな。……じゃ、元気でな』
そういって、お父さんが笑った瞬間、プロジェクターの映像は消え、あたりは元のように真っ暗になった。


