涙なんて出なかった。
実感がわかなかったからだと思う。
私は、涙でぐしょぐしょになった顔のお母さんと姉ちゃんに連れられて、お父さんがいるという部屋に入った。
テレビで見た光景と一緒だ。
本当に亡くなったら、白い布、顔にかぶせるんだ。
思ったよりも冷静な自分に正直驚いていた。
「ほら、來花。顔、しっかり見なさい」
そう言ってお母さんが、お父さんのその顔にかかっていた白い布を取って、私をお父さんの顔のもとへ連れてきた。
触るのが、怖かった。
触ったら、実感してしまう。
そう思った。
私は出そうとした手を引っ込めた。
実感したくない。お父さんとはもう会えないなんて一生知りたくない。
そんな思いからなんだと思う。
「お父さん、來花きたよ」
お母さんは答えるはずのないお父さんに話しかける。
「來花、お父さんが迎えに来るのずっと待っていたんだって」
だけど、お母さんはかまわずに話しかけ続ける。
「偉いねぇ。さすが私たちの娘だね」
そういって、お母さんは、お父さんの手を強く握って、そのまま、崩れるようにわんわん泣き出した。


