直哉たちは、あのマツタケパーティーを終え、ケントさんが言っていた、気難しい来客対応を、ものの見事に対応しきった。


浜辺家にも、小池家の親戚だと名乗って、まさにやくざ映画の黒幕にでも出てきそうな大人、数人がやってきた。


お母さんは、小池家の親戚だということをすぐに信じ、強面の人たちであるにも関わらず、彼らに全く動じる様子は見せず、家に招き入れ、ご自慢の料理をふるった。



食事中、直哉との関係を聞かれたが、ただの幼馴染であることを一貫して伝え続け、直哉が、彼らが未来から来たということを知っていることは口が裂けても漏らしてはいけないと自分に言い聞かせ続けた。



事前に立花さんから、気難しい来客、直哉の叔父である加納さんに事についてはレクチャーされていた。



絶対に、ケントさん、立花さん、直哉の未来での名前は口にしないこと。


3人が繋がっていることは知らず、私の中での直哉は幼馴染で、立花さんはバイト先の元先輩、ケントさんに関しては一切面識がないということにすること。


直哉のことが好きだというその想いは言わないこと。


以上の三点を守ってほしいということだった。



そのためお母さんにも、ケントさんと立花さんを呼んでマツタケパーティーをしたということは、その来客には伏せてほしいと事前に私から伝えた。


お母さんは、何も聞かずに、素直に了承してくれた。



来客対応を終えた後、直哉からただ一言「うまくいった」とtalkにメッセージが来ていた。


大役を終えた私は、その一言にすごく安堵したのを覚えている。



だって、知ってしまったから。



立花さんから聞かされていた。


というか、私が言わせたというほうが正しいかもれない。



「もし、私が口を滑らせてでもして、直哉たちが未来から来たってその人に行ってしまったとしたら、立花さんたちはどうなるんですか?」



その質問に、立花さんは一瞬口を強く結んだ。


そして、意を決したように口を開た。



「來花ちゃんには言うなって、直哉から言われていたんだけど、今回の来客対応が成功するかしないかでこれからの俺らの未来が決まるといっても過言じゃない。だから、來花ちゃんにはこのことを知る義務があると思うから伝えるけど、直哉には秘密にしてね」



立花さんのその前置きの言葉に私はうなずいた。



「俺らがこの世界の住人ではないということを、加納さんが知ってしまったときは、來花ちゃんの記憶の中からは俺らの存在をすべて抹消される。そして、大罪を犯した俺たちは一生元の世界に帰ることは許されない。一生この世界で生きていかなくてはいけないんだ」



ドクンと、心臓が大きくなったのがわかった。



「あ、安心して。加納さんにばれなきゃ、俺たちは來花ちゃんから帰るときに記憶を消すことはしないから。だけど、僕たちが元の世界に帰ってからも引き続き、俺たちが未来から来た人たちだったってことは他言厳禁だからね。そうしないと、どこからかその情報がばれてしまったとき、元の世界で俺たち大罪人として裁判にかけられちゃうから」



立花さんはきっと、私が聞いてきたから親切に教えてくれたんだと思う。


自分から聞いておいて、こんなことを思ってしまうのはなんてひどい人なんだろうと自分で思うけど。



聞かなきゃよかった。



自分の荷を重くしただけだった。



重役を終えた時、手汗をびっしりとかいていたことに終わってから気付いた。



どうしてもこれだけは守りたかったから。



直哉と見たいろんな景色との思い出は、守りたかったから。


それくらいしか、もう、守れるものがないと思ったから――――。