家の玄関を開けた瞬間、いつもの違う空気感を私は感じ取り、少し急ぎ足で私はリビングの扉を開けた。
「あ、お帰り、來花。いいところに帰ってきたわ」
一番に目に飛び込んできたのは、何やら大きな発泡スチロールの箱を抱え、満面の笑みを浮かべる母だった。
「え、何?その箱」
状況はいまだ読み込めていない私は、素直にそう問う。
「お帰り、來花。元気だった?」
そこへ、少し懐かしいが聞こえてきて、私はこの声のする方向へ視線を向ける。
「姉ちゃん。帰ってたの?あ、渉さんも」
リビングのソファーにはは姉ちゃんと渉さんが仲睦まじげに座っていた。
「俺の会社の人から松茸沢山もらってね。2人で独占するのも悪いかなと思って持ってきたんだよ」
そういって、相変わらず優しさの塊のような笑顔を向けてくれる渉さん。
その仏様のような気配りに心の底から感謝をする。
と同時に、その隣でまるでこの松茸は自分の手柄だとでもいうように、ウインクを私に積極的に飛ばしてくる姉に少しイラっとする。
「あーら、こんなにたくさん。これじゃあ、私たち二人追加しても食べられそうにないわね……。あ、そうだ。來花。直哉君呼んできなさいよ。最近忙しいみたいで家に来ないけど、たまには休憩も必要だと思うし……。ちゃんと食べてるか心配だし……ね?」
ね?って……。母よ。
私と直哉が今どういう状況下知らないで、軽々しく言ってくれる。
「あー。今直哉の家に親戚きてるらしくて、人数増えちゃうけどいいの?」
半分事実で、半分嘘なことを母に言う。
現に今、さっきケントさんも言っていたように、未来からの来客に備え、ケントさんと立花さんは、直哉の家に泊まり込んでいる。
つまり、直哉を家に誘うということは、もれなくその二人もついてくることを意味する。
「あら……何人くらい?」
「二人」
「うんと、我が家に今4人でしょ。そして、小池さんの家に直哉君入れて3人。計7人。それに対してマツタケが15本。1人2つ食べれるわ。余裕よ。呼んでらっしゃい」
そういって、母は、満面の笑みで、その大きな発泡スチロールを台所へと運んでいった。
まさか、そんなに、高級食材であるマツタケが我が家にあるとは思わず、地雷を踏んでしまった私。
もう、呼んでこざる終えない状況へと追い込まれてしまった。
「何々、なんか直哉君となんかあったの?」
そこへ我が姉がにやにやと意地悪な笑みを浮かべながら、さっきまで座っていたソファーから立ち上がり、私に近づいてきたのがわかった。
姉ちゃんに、弱みなんて握られたら何をされるかわからない。
妹として、この姉にだけは何ともない振りを貫き通さなければならないと思った。
「べ、別に」
ということは、頭ではわかっていても、考えていることがどうしても顔に出てしまう性分であるため、返事がぎこちなくなってしまう。
「……ふーん」
どうやら、姉ちゃんは何かを悟ったようだ。
「私が呼んできてあげようか?」
「え?」
思ってもみない助け船だった。
「いいわよ、暇だし。その間に風呂でも入ってくれば?」
そういって、姉ちゃんは私の前から立ち去り、お母さんのいる台所の方へと向かった。
何がともあれ、ラッキーだ。
直哉がこの家に来る事実は変わらないが、自ら小池家に行って直哉たちを呼んでこなくてもいい事は、ありがたかった。
どうしても思い出してしまうから。
あの生活感のない玄関を見たとき。あの3日前のことを――――。


