また逢う日まで、さよならは言わないで。




「さて、帰ろうか」



そういって、ケントさんがぐっと上に伸びをする。



あの日から3日。


直樹は私の家に夕食を食べに来なくなった。


おそらく、わざと私と距離を置いているのだと思う。


それは少し私にとっても有り難いことだった。



どんな顔をして直哉に会えばいいのか私は今だ、分からずにいた。



直哉の顔を見れば、次から次へと文句の数々が頭に浮かぶのだろうが、きっとそれをすべて私は飲み込んでしまうのだろう。


それが最後の言葉になるのは嫌だから。


直哉の記憶に私のそんな記憶は残したくないから。



「ほら、早く帰らないとお母さん、心配するんじゃない?」



頭上から、ケントさんの声が優しく降ってくるのがわかる。



そうだ。


もう直哉はいくら私のけりが遅くなろうが、きっと迎えに来てはくれないんだ。



「直哉は……今何してるの?



私の知らない直哉を、ケントさんは知っている。



「たぶん、これから未来からくる来客対応の準備に追われてるんじゃないかな。ホクトひとりであの時はやるって言ってたけど、結構気難しいお客様だからね……。カズヤと念入りに打ち合わせとかしてるんだと思うよ。」


「……そう、ですか」



そんな直哉を私は知らない。



「もったいないよ」


「え?」


「ほら、立って」



そういって、ケントさんは私の腕を急につかんで、私をゆっくりと立ち上がらせた。



「何がもったいないんですか?」



そういって、私よりも20センチ以上高いケントさんを見上げた。



「時間、有限でしょ?」



にかっと、そう子どものように笑う彼。


口髭があるのにも関わらず、笑うとかわいくなる笑顔をするから不思議である。



「まあ」


「じゃあ、悩んでないで思うままに生きちゃえ。この時代の10代の特権よ」


「思うままに?」



「そう、思うままに。自分に嘘をつかずにね。それがきっと、來花ちゃんのためでもあり、ホクトのためでもあり、俺らのためでもあるからさ」



そういって、ケントさんは私の頭をくしゃくしゃと撫でた。



「ちょ、子ども扱いしないでくださいよ」


「俺から見れば、來花ちゃんはまだまだ子どもさ。ほら、本当にそろそろ帰るぞ」



ケントさんは、少し笑いながら、私にそう言って背を向け、歩き出した。



私はおいて行かれまいと、少し小走りでケントさんの背中を追いかけた。