「來花に自分たちのことを話せって言ってるのか?」
來花に俺の今抱えている気持ちをぶつけて、告白してすっきりしてから、この世界から自分たちの存在を消して、なんのあとくされもなくさっさと去ってしまえばいい。
そう言っているようにしか俺には聞こえなかった。
「……ああその通りだ。だけど、さっきケントが言ったように、判断はお前に任せる」
カズヤがケントの後ろから静かにそう言った。
ケントは、俺の肩から自分の手を下ろし、真っすぐと俺のほうを見てきた。
「だけど、ホクト。お前にもう一つの選択肢を今与える」
「……何?」
「この世界で生き続けるっていう選択肢」
「え?」
「きっと、お前の考えにはなかったと思うけど、この世界で生きていくことは、不可能ってわけじゃない。ただ、元の世界にはもう一生戻れなくなる。つまり、旦那様、奥様とはもう永久の別れになるってわけ。過去パスポートを一度取得した人間はもう二度と過去パスポートの取得は不可能になる。延期も1度だけしかできない。お前は、1度延期してしまってるから、もうその手は使えない」
「……お前らがそれを許してくれないと思ってた」
その選択肢があることを、俺はずいぶん前から知っていた。
しかし、父さんに言われて監視役としてやってきたこの2人が、きっと俺をなんとしてでも、元の世界に戻しにかかってくるとわかっていたから、とうの昔に、この選択肢は俺の考えからは除外されていた。
だから、カズヤから、この選択肢を掲げられること自体、不思議でたまらなかった。
「ホクトの好きにすればいい」
俺の考えが読めたのだろうか。
カズヤが、ケントの背後から、そう言っているのが聞こえた。
「そこまでして、ここに残りたいのならそうすればいい。俺はもう何も言わない」
「本当にいいのか?」
カズヤがこちらにゆっくり詰め寄ってきた。
そのせいで、ケントが一歩後ろに下がったのがわかった。
「ああ、お前にその覚悟があるならその選択肢を選べばいい」
「覚悟?」
「あの世界での輝かしい未来を捨てて、俺たちを捨てて、お前を待ってる旦那様や奥様を捨てて、この世界でつつましく愛する人と暮らすことを選ぶ覚悟があるなら。好きにすればいい」
「……はは」
自然に笑みがこぼれ、俺はうつむいた。
カズヤに今現実を突きつけられただけにすぎない。


