その日の夕方だった。
來花の家から帰宅しようとしたとき、俺の家の2階の部屋に淡い光がともり、見覚えのある人影が二つあるのが外からわかった。
俺は、急いで部屋の明かりがともっていた部屋へかけあがり、部屋の電気を一気につける。
すると、二人は俺が来たことに気づいたようで、二人同時に、ドアの前で立っている俺を見た。
「おお、久しぶりだな。さすが育ちざかり。身長また大きくなったか?」
俺を見て一番に声を発したのは、相変わらず、口髭をダンディーに伸ばしたケントだった。
その隣で、神妙な顔をして立っているカズヤ。
「……何しに来た?」
嫌な予感がした。
こんな時間に、二人揃って、何の前触れもなく、俺の部屋にいることなんて、今までなかった。
大事なことであれば、いつも、二人はメールか電話で伝えていた。
それは、3人の繋がりを周囲にばらさないためであった。
「加納さんが来る日が決まった」
静かに、カズヤがつぶやくように言った。
ケントは、ただ、口を結んでそれ以上何も話さない。
「いつになった?」
「ちょうど今日から一週間後にやってくる」
「叔父さんだけ?」
「いや、加藤さんが選んだメンバー5,6人がやってくるそうだ。みんな会社の重役ばかりだから、失礼があってはいけない。わかってるな」
カズヤの目が鋭く俺を見てくるのがわかった。
きっと、それまでに、來花との関係を今のようなあやふやなものではなく、はっきりさせろという意味合いも含まれているのだろう。
しかも、叔父さんが納得いくよう説明しなければいけない。
「ホクト」
ケントがゆっくりと口を開き、俺にゆっくりと詰め寄ってくるのがわかった。
俺はそんなケントをただただ、見ていた。
「何?」
俺がそういうと、ケントはいつものように笑って見せた。
「俺は、他の誰がなんて言おうが、お前の判断にしたがうさ。……きっと、ここにいるカズヤもそうだと思う。な、カズヤ」
正直、最初はケントが言っているこの言葉の意味が分からなかった。
ケントは、俺の肩に手を乗せ、2、3回、俺の肩を優しくたたいた。
「この世界に来るとき、新幹線の中で書かされた契約書の内容、覚えてるか?」
「ああ」
幼いころではあったが、契約書の内容は大事だからと、父さんは俺が意味を理解するまで読み上げてくれた。だから、きちんと覚えている。
「もともとこの世界の住人じゃない俺たちが、この世界の誰かに自分の正体を明かすとどうなるか、わかってるよな?」
「ああ、わかってる。……もう一生、元の世界に戻ることは叶わなくなるんだろ」
「その通り。だけど、万が一自分の正体がばれてしまったときのために、1つだけ救済手段があるだろ?」
「自分の存在をこの世界から抹消すること」
「そうだ、その通り。さすが、ちゃんと覚えてるな」
そういって、俺に笑いかけるケント。
笑っているが、話している内容は、残酷なことしか言っていなかった。


