ホクトとして、來花と関われなくなった今、來花とのコミュニケーション手段は、直哉としてだけになった。
数か月前までに戻った気分だ。
俺はいつも通り、來花の部屋でゲームをしていた。
來花はいつも通り、俺に嫌みを1つ二つ言いながら、突然俺が待ち望んでいた質問をしてきた。
「直哉は高校卒業したらどうするの?」
一年前からこの質問を俺は待っていた。
俺は、生唾を來花にばれないように呑み込んだ。
「急に何?」
いつも通り、ぶっきらぼうに俺は來花に返事をする。
「……ふと思ったから聞いてみただけ」
來花はそう言っているが、大体の來花の考えは読めていた。
高校3年生になって、友達と遊んで帰ってくる回数がぐんと減った。
それはきっと周りの子たちが受験勉強に必死になっており、來花と遊ぶ暇がないのだろう。
來花も、それをちゃんとわかっているから、こうして、持て余してしまった時間の使い方もわからず、自分の将来に1人不安になってしまっているのだ。
「働くよ」
「え?」
俺のその言葉に、わかりやすく驚いた來花。
「何?」
「大学に行くと思ってた」
「大学はいかない」
別に來花に嘘をついているわけではない。
俺は大学にはいかない。
この世界での高校というものを卒業すれば、俺はそのまま向こうの世界の社会に出て働くことはもう決まっていた。
「なんで?」
「学びたいことがないから」
「直哉頭いいんだから、大学に行けばいいのに」
「やりたいことがあるから、大学にはいかない」
この世界では、なぜか頭がいい人は大学に行けと言う傾向がある。
俺にしてみれば、その理由がわからなかった。
学歴が欲しいから大学へ行くというのならば、それは大学で学ぶ意味はもはやない。
なぜなら、大学へ入学することが目的になってしまっているのだから、その先撃沈していくのは目に見える。
別に、この世界の学歴問題を否定しているわけじゃない。
その世界にはその世界にあった学びの仕方が必要だと思う。
しかし、少なくとも來花には自分のやりたいことを見つけてほしかった。
明確じゃなくていい。
あやふやでいい。
それでもいいから、周りが勉強してるから不安になるようなそんな時間を過ごしてほしくなかった。
もっと、自分の将来に自信をもって進んでほしかった。
「……やりたいこと?」
來花は、そういって、首を傾げた。俺の答えが意外だったのだろう。
「やりたいことってなんなの?」
「秘密」
「なんで」
「今は教えられない」
「來花は?」
「何が?」
「高校卒業したらやりたいことないのか?」
「……やりたいことねー」
來花はそういって、天井を仰ぐ。
その様子からするに、多分そんなこと初めて考えたのだろう。
「……なさそうだな」
思わず、考えるよりも先にため息が漏れた。
「なんで、そんな言い方するの」
「寂しい人生だなと思って」
俺のその言葉に少し怒りを覚えたのか、來花は唇を強く結んだ。
「探せば?」
わざと挑発する。
「……やりたいこと?」
「うん」
「どうやって見つけるの?」
「……さあ」
俺は首をかしげて、再び、スマートフォンの画面に視線を落とした。
來花は、生粋の負けず嫌いだ。
俺のこの挑発に乗らないはずがない。
確信があった。
そして楽しみでもあった。
來花のやりたいことがどんなことなのか。
その将来を俺は知ることはできないのだろう。
でもその役に少しでもなれれば、俺はそれでよかった。
それでもう俺は、未練なく元の世界へ帰れる――――。


