俺が、彼にこっそり会いに行ったのは、來花と彼が2人で出かけた日の翌日だった。
來花から、昨夜、ホクトのほうに、来たメッセージの内容が少し引っかかっていた。
ホクトと名前を聞いて戸惑う人物なんて、俺の知る限りでは、この世界に二人しかいないはずだ。
まさかとおもった。
こんなこと、本当に來花のストーカーみたいでやりたくはない。
しかし、俺は、立花副店長という人物が一体どんな人物なのか、自分の目でちゃんと確認したくて、來花のバイト先へ1人向かった。
「立花さん!」
來花が好意を寄せる男性の名前を呼ぶ声が、店内に入った瞬間に聞こえてきた。
「はい、何?」
男性がその声にこたえる。
聞き覚えのある声だと思った。
声の方向を見てみると、俺は、自分の目を疑い、声が出なかった。
「……あの……。お客様、おひとりでよろしかったですか?」
ホールのスタッフが、俺を案内しようと声をかけてくれていたことに今気づく。
「あ、すいません。また来ます」
俺はそう言って足早にその店を出た。
そして、ポケットに入れてあった、歩人としてのスマートフォンを取り出し、俺はある人物へすぐに電話を掛けた。
電話の相手はすぐに俺の電話に出た。
「ああ、どうした歩人」
「ああじゃねえよ。お前が、立花祐樹か……。カズヤ」
俺のその言葉に、一瞬言葉が詰まった様子のカズヤ。
「いつばれるかとひやひやしてたよ。なんで、気づいたんだ?」
「俺だよ。來花とメッセージやり取りしてるホクトってのは」
「やっぱりそうか……。何してるんだよ、歩人。覚悟決めるんじゃなかったのか?」
「そのために、やり取りしてるんだよ。俺はカズヤ、お前に聞きたいことがある」
「悪かった。お前をだますようなことしてて」
カズヤは俺が怒ることを予想しているのか、先にそう言って謝ってくる。
「なんでこんなことした?」
「なんでって、お前ならきっと、俺がこんなことする理由なんでお見通しなんじゃないのか?」
「……覚悟がなかなかできないのは、俺のせいだ。來花まで巻き込む必要はない」
きっと、カズヤは、万が一の事態。
つまり、元の世界へ戻らないという選択肢を俺がとったときのために、來花との接点を作っておきたかったのだろう。
どうやって、來花の働くバイト先の副店長になったのかは謎だが、カズヤのことだから、俺の考えつかないようなやり方を取ったのだと思う。
「お前のことを信じていないわけじゃない」
「……來花に関わるな」
「ばれた以上、その言葉を言われることは覚悟してたよ。わかった。約束するよ」
「ケントはこのこと知ってるのか?」
「ああ、しってるよ。來花ちゃんからホクトとして聞いてると思うけど、ガクっていうのがケントのことだよ」
「……ったく。なんだよお前ら、俺に黙ってこそこそと」
「お前に黙っていたことは本当に悪かったと思ってるよ。だけど、俺らの行動は歩人のためでもあって、來花ちゃんのためでも、将来の直野家のためでもあるんだ」
「來花に対して思わせぶりな態度をとってお前は……っ!」
「ホクトには悪いけど、來花ちゃんに対して、思わせぶりな態度をとった記憶は一度もないよ」
「は?」
來花から、以前に聞いた、キスされそうになったというくだりを俺は忘れてはいなかった。
あの場では、笑ってやり過ごしたが、どう考えても來花の話が正しければキスしそうになっていたはずだ。


