「私、だまされてたんだ」
來花は、ポツリと、言葉をこぼすようにそう言った。
「……誰に?」
本当は、來花のその言葉に大体の予想はついた。
だけど、俺は知らないふりをして、そう聞き返す。
來花の本心が知りたかった。
「正人。正人はただ、私と付き合う前から仲良かったから、彼女がただほしくて、私に告白しただけだったらしいの。……私のこと好きじゃなかったんだって」
再び、來花の目から、静かに涙が頬を伝っていた。
俺は、そばにあったティッシュを黙って机の上に出す。
來花は、その止まらない涙を、俺の置いたティッシュで、黙ってぬぐった。
「そっか」
「私バカでしょ?」
「……いや」
「何よ、こんな時だけ、変に直哉優しくなるから調子狂うじゃん」
來花の涙は、止まることはなく、次々と机のティッシュを消費していく。
目の前に男子がいると思っていないのか、豪快に鼻水までかみだした。
「そんな目強くこすったら明日の朝目、大変なことになるぞ」
「いいの。どうせなら、見せびらかしてやるんだから。お前のせいで泣いたんだって」
「普通、振られて悔しいなら、泣いたことは隠しに行くんじゃねえのか……」
「女の子をここまで泣かせた奴に、次の彼女なって出来るもんですか」
來花は、再び、ティッシュを鼻に当て、豪快に鼻水をかんだ。
「ああ、すっきりした」
そして、机の上にあった、大量のティシュを側にあったゴミ箱に來花はつっこんでゆく。
その顔は、さっきまでの弱弱しい來花ではなかった。
「切り替えられた?」
「うん、もう大丈夫」
そういって、真っ赤な目で笑った來花。いつもの來花の笑顔だった。
「……悔しくて泣いたのか?」
「んー、まあ、そんな感じかな。告白の理由が、私が手ごろだったからなんだって……。それがもう悔しくてね。でも、直哉にだけは言うけど、私、正人と付き合ってた時も、正人のこと好きかどうかわからないで付き合ってたんだよね。だから、私もまったく非がないってわけじゃないから、泣くのはもうこの辺にしとく」
「そっか」
正直、付き合った理由まで、來花が知ってしまうのは予想外だった。
元彼が、振ったときに來花に言ったのだろうか。
そうであるのなら、本当に、奴は悪党だ。
「うん、もう、次付き合うときは、自分がちゃんと好きになった人と付き合うことにする」
「ああ、そうしな」
「ありがとうね、直哉」
「……この仮、後で返せよ」
「いつかね」
來花はそう、笑顔でそう言って、ソファーから立ち上がった。
もう帰るのだろう。
「あ、お母さんが今日おかず作りすぎちゃったから、直哉うちに食べにおいでって言ってたよ」
リビングを出ようとしたとき、來花は思い出したように、そう俺に、立ち止まっていった。
「わかった。じゃあ、1時間後くらいにお前の家行くって言っといて」
「わかった、じゃ、またあとでね」
來花は、俺の返事を待たずに、足早にリビングを出て、俺の家の玄関を出ていった。
この家に来た時の、数分前の來花とは大違いだ。


