楽しみなことは、なかなかやってこないのに、嫌なことっていうのはすぐにやってくる気がする。
「おお、ホクト。見ない間に大きくなったな」
口髭の生えたケントが、俺に会うなり、子ども扱いして、俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。
俺はその手を迷惑そうに払う。
「聞いたぞ、ここに残りたいってわがまま言ったそうだな」
その後ろで、カズヤが少しあきれてたように。
静かに俺にそう言った。
今日の朝から、二人が家のインターンフォンを押し、浜辺家に見られる前に素早く俺は2人を家の中に入れた瞬間、二人に言われたことはこれだ。
「……別にお前ら二人に来てくれって、俺が頼んだわけじゃない。父さんが勝手に頼んで勝手にお前らが来たんだろ」
少し申し訳ないという気持ちと、そんな反抗的な言葉しか返せない自分がまた情けなかった。
「まあ、そういうことだ。とりあえず、少し腰かけてこの続きの話をしないか?」
しかし、カズヤはそんな言葉しかかけられない俺をとがめることは決してせず、そう、さらりといった。
大人な態度をふきかざしてくるカズヤにまた腹が立ったが、もうこれ以上何を言っても自分がみじめになりそうで、俺は黙って2人をリビングに誘導した。
2人はリビングに着くや、2人はソファーに腰を下ろす。
俺はその間に、3人分のコーヒーを淹れに向かった。
「こんな広い家で一人寂しくないのか?」
ケントが、コーヒーを淹れる俺にソファーに座りながら、そう問いかけてくるのがわかった。
俺は、簡単に淹れたインスタントのコーヒーを3つテーブルに運び、二人と対面にあった2人がけのソファーに1人で座った。
「別に」
俺はそう言って、1口コーヒーをすすった。
「ホクトがよければ、ここにいさせてもらおうと思ったが、どうやら、その態度からしてそれは受け付けないようだね」
カズヤはそういって、俺の持ってきたコーヒーをすすった。
カズヤは昔からそうだった。俺が何も言わなくても、俺の態度や言動から察して先に状況を判断してくれる。
もともと口数が多くない俺にはありがたかった。
「え、まじか。おい今日の宿泊先、どこにすんだよ」
しかし、ケントはここに住み込むと思っていたようで、1人慌てだす。
さすがに、今日この世界に来て、今日この世界で宿泊先を探せといってここを追い出すのは、あまりにもかわいそうすぎる。
そのため、今日だけなら泊まっていってもいいと、俺から言おうとした時だった。
「もう、家は用意してある」
そういって、カズヤはさらりとそう言い切った。
これには俺も、そしてここまで一緒に来たはずのケントも驚きを隠せず、開いた口が塞がらない。
「おまっ、いつの間にそんなことしてたんだよ」
「旦那様にホクトの件を頼まれたときに、ここの世界のことも詳しく聞いてた。万が一、ホクトが俺たちのこと拒否したときのために、この世界の宿の取り方も教えてもらった。このスマートフォンってやつで、インターネットにアクセスして、好みの宿を自分で選んで個人情報を入力すればもう予約できるらしい。前の世界よりは手間がかかるけど、難しくはないな」
動揺するケントとは裏腹にカズヤ淡々と説明した。
「なんだよ、あせったじゃねえか。野宿かと思ったわ」
「それは俺も嫌だからな」
そういって、二人が俺の目の前で笑ってる。


