また逢う日まで、さよならは言わないで。




この世界に来て、1年が過ぎようとしていた時だった。


過去パスポートの期限が、すぐそこまで迫っていた。



もう、元の世界に戻らなければいけない。



そんな現実が、すぐ目の前まで来ていた。



これが俺の人生で最初の親へのわがままだったと思う。



「俺だけここにいる」



両親がリビングで淡々と荷物を片付けるなかで、俺はそう叫んだ。



両親の手が止まり、二人とも俺のほうを見て、父さんのほうが、リビングの扉ので立ち尽くす俺に歩み寄ってきた。



そして、俺と目線が一緒になるように、しゃがみ込んだ。



「喘息は、この一年で十分楽になったはずだ。何かこの世界に残りたい理由でもあるのかい?」



父さんの声は優しかった。



父さんの言う通り、ここに来てから俺の喘息はびっくりするほどによくなっていた。


走っても、すぐに息苦しくなることはなく、胸の痛み等の症状もここ最近はでたこともない。


やはり空気のきれいなところでの療養というのは、効果てきめんのようだ。だから、病気を理由として俺がここにいたいわけじゃない。



「來花といたい」



それだけだった。



ただそれだけの理由で、俺はここに、この世界に残りたかった。



初恋だった。


彼女が、俺の初恋にいつの間にかなっていたんだ。


幼い恋だと笑われるかもしれないが、この時の俺にとって、來花の存在は何よりも大きく、必要不可欠な存在だった。



父さんが、俺の目をまっすぐ見てくる。



俺も、絶対にそらすまいと、真っすぐその目を見た。



「本気か?」


「うん、本気」


「一時的な考えじゃないのか?」


「今の俺の思いは父さんや母さんに何言われたって変わらないよ。だけど、俺だっていつかは向こうの世界に、帰らなくちゃいけないっていうのは分かってる。でも、このまま何もしないで、自分の気持ちの整理もつけないで、向こうの世界の帰るのだけは嫌だ」



心の底から、父さんに対して訴えた。



無理なことを言っているのは分かってた。



向こうで、たまりにたまった膨大な量の仕事を父さんは帰ってこなさなければならない。


母さんは、そんな父さんを支えるために一緒に帰らなければならない。



子どもの俺のこの気持ちが、二人にどれだけ迷惑になるかをわかっていた。


しかし、それでも、俺はここにいたかった。



父さんが、ゆっくり立ち上がり、大きく息を吐いた。



「わかった。1つ俺に考えがある」


「ちょ、あなた」



父さんのそのわかったを、不安に思った母さんが口を挟もうとしたが、アイコンクトで父さんが母さんを制した。
 


父さんは、上から俺の目を再び真っすぐ見てきた。



「この世界じゃあ、何かあったときに守ってくれる大人が必要不可欠だ。未成年のお前にとったら大人の俺たち2人がこの世界にいないということは致命的だ。わかるか?」


「うん」


「それで1つ提案がある。ケントとカズヤをこっちの世界によこす」


「え?」


「あの二人ももう、今年で18だ。高校も飛び級でとっくの間に卒業してるから、なんら問題はない。18だとまだこの世界じゃあ、子どもに見られてしまうから、少しここでの身分証明書の年齢を詐称しても大丈夫だろう。せめて20代にはしておかないとな」



父さんが、俺の頭をくしゃくしゃに撫でて、そして笑った。



「二人、こっちの世界に来ることができるの?」


「ああ、俺に任せとけ」



父さんはビックマウスだが、言ったことは全部ちゃんとやる人だ。


だから、先祖代々受け継いできた会社を1周り二回りも大きく成長させることができたのだと思う。



「本当に大丈夫なの、ホクト。1人暮らしすることになるのよ。いくらケントとカズヤがくるっていっても、すぐ来れるわけじゃないでしょ?あの二人」


「料理も家事も、俺できるよ」



母さんの隣で、時間があるときはよく手伝っていた。


だから、そこに関して俺は自分自身に何の不安もなかった。



「ホクトが大丈夫だっていってるんだ。親が信じてあげなくてどうする。ま、何かあったとしても、隣の浜辺さん家があるから大丈夫さ」


「そうだけど……」



母さんはまだ、心配なようだが、父さんはそんな母さんを笑ってなだめていた。



だけど、そんな父さんも、俺に1つの条件を提示してきた。



「お前は、うちの会社の大事な後継ぎだ。だから絶対にもとの世界に戻らなくちゃいけない。それはわかってるはずだ。だから、今のその気持ちに整理をつけて必ず期限内には帰ってこい。同族経営とはいえど、息子のお前が返ってこないんじゃ、任せるものも任せられなくなる。わかったな」



そういった、父さんの目は真剣だった。



「わかった」



俺がそういうと、父さんは、俺の頭を再びくしゃくしゃにした。