また逢う日まで、さよならは言わないで。




すべての準備が整ったとき、俺たちは大荷物を抱えて、今まで住んでいた家を後にした。



「ねえ、母さん。これからどこに行くの?」



新幹線に乗っていたときだった。



俺たちに以外には乗客はいない。


父さんが貸し切りにしたのだろうかと最初は思ったが、時刻表に俺たちが載っている新幹線の便はなかった。


ここ数日のイレギュラーな状況に俺には不安が募っていた。



だから、窓際で外の景色を見続けている母親に俺は問いかけた。



「きれいな世界に行くの」



母さんは、不安がる俺の手を握りしめて、優しくそういった。 


きれいな世界。



母親のその言葉に俺は首をかしげたのを覚えている。



俺はこの世界しか知らない。


この世界で生まれ、この世界で育った。



だから、この世界以上に綺麗な世界に行くことが少し不安で、だけど少し楽しみで。



「向こうに着いたら、たくさん遊ぼうな」



父さんは、俺の頭をくしゃくしゃにした。



このときの俺にとっては何より、毎日仕事でなかなか遊んでもらえない父さんと、どこかに出かけることが嬉しかった。


この荷物の量だとしばらくは、俺と遊んでもらえる。


そう思ったら笑顔があふれて仕方なかった。



新幹線から降りる。


新幹線の小さな窓から見えた景色は見たこともない駅だった。


もはや、駅なのかどうかも疑った。


あまりにも無機質な空間で、周りはコンクリート打ちっぱなしの壁しか見えなかったのだから。



新幹線から降りると、何やら真っ黒なスーツに身を包んだ男の人たち数名が、俺たちを待っていた。


そのうちの一番前にいた背の高い男性が、俺たちにむかって口を開いた。



「お待ちしておりました」



そう1人の男性がいうと、俺たち家族に、スーツの男性たちは全員、丁寧に頭をさげた。



「過去パスポートの確認を行います」



同様のスーツの男性がそう、俺たちに言葉をかける。



母さんはその言葉を待っていましたというように、素早くそのスーツの男性にパスポートを3冊分渡した。



スーツの男性は、母さんからそのパスポートを受け取ると、一冊一冊丁寧に確認し始めた。



「確認できました。ではご案内いたします」



その言葉を合図に、数名のスーツの男性は俺たちを取り囲み、持っていた荷物を持ってくれた。


だけど、この異様な空間が俺にとっては恐怖以外の何物でもなかった。



「もう少しの辛抱だ。すこしだけ、我慢してくれよ」



俺がこの人たちのことを怖いと思っていたことがばれたのか、父さんがそう俺にしか聞こえないような声で言ったのがわかった。



スーツの人たちに、無機質な灰色の道を誘導されて歩くこと数分。


なにやら立派なゲートが見えた。



ゲートの前まで来ると、ぴたりと、スーツの男性はたち足を止めた。



「ここから先は、直野様たちのみでお進みください。……それではよい日々を」



スーツの男性1人のその言葉に、他のスーツの男性全員が俺たちに再び頭を下げた。



その瞬間、重々しいゲートが静かに、そしてゆっくりと上がった。