私が今日何をしようと、どんな気持ちでいようと、そこにやつがいるのは変わらない。
「ああ、お帰り」
「……ただいま」
直哉は相変わらず、定位置化しているソファーの上でゲームをしていた。
よくもまあ、四六時中ゲームをやっていて飽きないと思う。
「なんかあった?」
私の様子が変だと思ったのだろうか。直哉は珍しくゲームをやめて、私のほうを見てそう言った。
私のことを気にかけることはあっても、第一優先は絶対的にゲームのため、ゲームをやめてまで、私に話しかけることは滅多にない。
しかも、画面落としてるし。完全に私の話を聞く準備が出来ている。
「……直哉こそどうしたの?」
「……なにが?」
「私の話ちゃんと聞くなんて何年振り?」
「いつも聞いてるし」
「ゲームしながらね」
「でも聞いてるし。そしてちゃんと答えてる」
「まあ、そうなんだけどさ」
いつもと違う直哉に少し戸惑う。
立花さんといい、直哉といい、今日は本当に周りが予想外の動きをする。
「それで……。なにがあった?」
直哉は前のめりになって私のほうに体を倒す。
私は持っていたカバンをデスクに置き、直哉の隣に座った。
「……。あのね、キスされそうになったの」
「……」
直哉は急に私から目線を外す。
恋愛の話には興味がないのだろうか。
しかし、話させたからには、私だって最後までこの話を直哉に聞いてほしかった。
「ちょ、最後まで話聞きなさいよ」
「聞いてるし」
「こっち向いてよ。なんで反対のほう向いてるの。直哉が聞いてきたんだからね。最後までちゃんと聞いてよね」
直哉は渋々ではあるが、こちらのほうを向いた。
「したのか?キスは」
私は首を横に振る。
「なんで?」
「わかんない」
「……告白されたのか?」
「されてない」
「は?」
直哉は、首をあからさまにかしげる。
そして、うっすらと笑みを浮かべた。
「お前の勘違いなんじゃね?」
「……え?」
「なんでキスされると思ったんだよ」
「だって、顔が近くに来たから。……そう思うじゃん。腰だって引き寄せられたし」
「それだけで?」
「……うん」
直哉は少しうつむき、小さく息を吐いたのがわかった。
本当に勘違いなのだろうか。しかし、あの雰囲気は確かに……。