「…今ここなんですね。なるほど。地図見ても分からなくて。助かりました。ありがとうございました」
男性は私の携帯を覗きながら、なるほどと感心していた。
「いえいえ。それでは」
道が分かったようなので私は男性に礼をしてから、退散しようとした。
すると、男性が声をかけてきた。
「あの名前教えてもらっていいですか?俺は西原凌と言います」
男性は真っ直ぐに私の目を見て、聞いてきた。
「…私は広瀬千花です。あ、すいません。私用あるので」
私は男性と向き合ってから、男性と目を合わせて名前を名乗った。
男性の姿に律儀な人だなあと印象を受けて、私は素直に答えた。
「あ、あの。また会えますか?」
私が名前を答えた後、男性は私に問いかけてきた。
ただ親切な人の名前くらい知っておきたかったのだろう。
親切な人とまた会って、お礼でもしたいとか男性は思ったのだと私は判断をして、男性に答えた。
「…会えたら、また」
私は口角をあげてから真っ直ぐに見て、私が男性の方を後ろを振り返ると、まだ男性はいた。
私が男性から見えなくなるまで、男性は見送っていた。
そして、男性と別れて、それ以来会うことはなかった。


