「ああ、お前になんか負けないからな」

根岸くんは口の中を膨らませ、プイとしてから、立ち去っていた。

西原は少し笑ってから、根岸くんの後ろ姿を見ていた。

「……少し、やばくなってきたかな。作戦考えないと」

西原はポツリと独り言を呟いていた。

一方で、広瀬千花の方は。

「咲。これってどうやるの?」

私は机に向かい、午後の授業で提出する課題をやっていた。

早めにやっておけという申し分ないのは分かる。だが、私だってやるときはやる。
しかし、出来なかった。
それは、自分自身の問題だ。

最近は、西原のことを考えていたので、
勉強が手につかなかった。
言い訳と言われれば、なんとも言えないが。

「あー、これは。こうで。そうそう」

咲は私が分からないところを丁寧に教えてくれた。今やっているのは、数学の課題。

私が一番不得意な科目。
公式を使えば、なんとか出来るかと思いきや。
全然出来ない。

「そう言えば、最近西原見なくない?」

咲はシャープペンを持ったまま思い立ったかのように、言葉にする。

「さあ」 

私は気にしないフリをして、首を傾げる。

「……気になるんでしょ」

こういう時、咲は鋭い。咲は頬杖をつけて、私を見てくる。

「……別に」

私は咲から目を逸らして、下を向く。

「顔に書いてるよ、バレバレ」

咲は私を見てから、シャーペンで課題に取り組んでいた。