「…別になにもない」

私は母から目を逸らした。

「…千花が何を考えているのは分からないけど。もしかして、恋愛方面?」

母は私をチラリと見つめて、具材をフライパンに入れた。

「え?」

私は母の方を見て、声を発した。

「だって、悩む時はいつもお母さんに言うでしょ。でも、今回は何も言わないから。当たった?」

母は今流行りの歌を鼻歌で歌いながら、私を見て聞いていた。

「…そうだね。お母さんの言う通り」

私は観念した。
やはり、母には勝てない。
まさか、恋愛方面だと当てるとは。

「…千花がそんなに悩むの初めてじゃない?」

母は具材を炒めながら、私に聞く。

「…そうだね。だから、分からないのかも」

私は素直に認めて、ただ呆然と母の隣に立っていた。

「…その子はどういう人?」

母はふふーんと鼻歌を相変わらず歌って、私に聞いてくる。

「…明るくて前向きで、きちんと言いたいこと言ってくるの迷惑だし。嫌だって言ってるのにやめないし。はあ」

私は指で数えて、西原の人柄を母に説明した。

「…本当に好きなのね?」

母はクスッと笑みを浮かべて、何かを思い出しのか私に聞いてきた。