「遥斗くん…まだ帰ってなかったんだね」

「あー……うん。星野さんも」

「私は傘忘れちゃって…」

「そうなの?」


「うん」と頷いたあとでハッと気付く。

これじゃあ、まるで…。


すぐに「じゃあ、はい」と、差し出されたのは黒い折り畳み傘。


「コレ、使って」

「えっ…?でも…」


遥斗くんを見つめると「ね?」と念を押されて。

気がつけば右手にぎゅっと、折り畳み傘を握らされていた。


「またね」

白い歯を見せた遥斗くんは、「あっ」と言う間に雨の中に飛び出していく。


「………」


ポカンと開いた口を塞ぎもせずに、ただただ消えていった背中を見る。

ザーッと降る雨の中を、ビューっと走っていった遥斗くん。