でも、それよりも。

今、遥斗くんと並んで歩いていることの方が大切で、私の意識は完全に隣に向いている。


「あっ、スクバ!」

「ん?あぁ、はい」


カゴに入れてもらっていたそれを受け取る。
…すっかり忘れていた。


「…星野さんのスクバ重くない?」

「え?そ、そう…?」

「もしかして、教科書とか持って帰るタイプ?」

「う、うん…。基本的には…。でも置いていくのも全然あるよ」


だから、そこまで重くないと思う。

今日はたしか、数学と英語の教科書が入っているくらいだ。


「そっか。えらいね」


遥斗くんに悪戯っぽく笑われて、「う…」と言葉に詰まった。

小さく深呼吸をして心を落ち着かせる。


あっという間に校門前。

ショートカットに黒いジャージ姿の岡野先生が、デデンと仁王立ちしていた。


「おはようございまーす」


ニコリともしない岡野先生に彼は怯むことなく笑顔を浮かべる。

怖いって言ってたのが嘘みたい。

私はどうしてもちょっと怖くて、会釈をして通り過ぎた。