きみのへたっぴな溺愛

「おーっ、こっわ〜」
「え、見張りない感じ?」
「じゃあ楽勝じゃん」


先生がいなくなったのを確認して、みんなは口々に言う。


「なんだ、岡野先生いないんだね」


隣でまりやもホッと息をついた。


「よーし、ちゃちゃっと終わらせるぞー」


一際大きな声が聞こえて、そちらを見る。

水のないプールのど真ん中に立つ女の子。

明るい茶髪。いや、ほぼ金髪のポニーテールが風に揺れている。


「みんなで力を合わせてがんばろーう」


その子がグーにした右手を高く上げれば。

「リカ、バカだなー」
「はい、そこー!悪口言うなー」
「本当のことじゃん」

と会話が続く。


「目立ってるね、F組のリカちゃん」

「まりや知ってるの?」

「知ってる…っていうか、ギャルっぽいけど、天真爛漫でイイ子…って噂だよね」

「そうなんだ…」


初めて知った。“リカちゃん”と呼ばれる彼女をぼんやりと眺める。


大きな瞳に赤く色付いた唇。

短いスカートから覗く長い足。

口を大きく開けてニカッと。
その笑顔は太陽みたいだなあと思った。


「私たちも頑張ろう!」


まりやに顔を向けて言えば、「そうだね」と返ってきて。

リカちゃんの元気に勝手につられて、必死に手を動かした。