きみのへたっぴな溺愛



「じゃあ、衣織もまりやも頑張ってね」

「うん。ありがとう」

「またねー」



手を振って教室を出る未緒をまりやと一緒に見送った。


放課後。プール掃除の時間だ。

また岡野先生と顔を合わせると思うと、怯んでしまうけど、まりやがいるなら心強い。

ポーチからコンパクトミラーと携帯用のヘアブラシ、黒いゴムを取り出して髪をひとつに結ぶ。

やるからには、やらなくちゃ。と気合が入るようにした。


「行こっか」

「うん」


プールに行けばすでに何人かの女子生徒がいる。


「結構人いるね」

「うん…」

「みんな怒られたんだね」


コソッと耳打ちしてくるまりやに苦笑をこぼしていたら、岡野先生がやってきた。

手にはデッキブラシを何本も持っている。

わちゃわちゃと騒がしかったのが一瞬にしてシンと静まって、みんなが岡野先生を向く。


「このブラシできちんと掃除するように」


相変わらず低い声で岡野先生は言い放ち、デッキブラシを私たちに配ったあと…。

見張りをするのかと思ったけど、そのままスタスタと立ち去った。