「…お願いします」

「うん。一応掴まっといて」


「はい」と頷いて腰にそっと手を回す。

その手が微かに震えているとわかった。

ドキドキと心臓が音を立てているのを実感して、恥ずかしさは増すばかり。



「よし、出発」


ゆっくりと動き出した振動で、思わずキュっとワイシャツを握ってしまう。


見上げた先には、当然遥斗くんがいて。
どんな表情かは見えないけど、サラサラの黒髪が揺れている。

いつも話すので精一杯な彼とこんなに近くにいる。

心臓は壊れてしまいそうなほど、ドキドキバクバク。

風があたっているはずの頬が、熱くて赤くなっていると自覚する。

遥斗くんが前を向いていてよかった。

胸の鼓動も赤い顔も気づかれませんように。
恥ずかしくて、どうしたらいいかわからないから。


キィと自転車が止まって、「大丈夫?」と上から声が降ってきた。

わずかに振り向いた遥斗くんと視線が交ざり、ドキンと心臓がさらに大きな音を立てる。


…はやくも先程の願いは届かなかった。


「だいじょぶ…。ありがとう」


ニッと笑った遥斗くん。

その笑顔はよく教室で見るもので、なぜか安心した。