きみのへたっぴな溺愛

有無を言わせない空気に、ブンブンと首を縦に振る。

「じゃあ終礼後、プールに集合」とだけ言い残して、岡野先生は去っていった。

うぅ。怖かったあ…。

スカートのみならず、リップまで注意されて、プール掃除を命じられる始末。

上がっていたテンションは、あっという間に下がってしまう。


重い足取りで教室に向かい、自分の席で1回だけスカートを折り直す。

怒られたのは今日が初めてだから、1回ならセーフだと思う。

慣れたスカート丈にホッと息をついた。


「あ、」


前の扉から教室に入ってくるまりやが目に入る。


「まりや、おはようっ」

「あ、衣織おはよ。っあ!」


まりやの席にダッシュすると、鞄を机に置いた彼女が私をじーっと見てくる。


「ん?」

「もしかしてリップ買った?」

「わかるの?」

「わかるわかる。かわいい」

「ありがとう…」


パァと気持ちが明るくなる。

我ながら単純だけど、気付いてくれて嬉しい。

「可愛い」と言ってくれてもっと嬉しい。