放課後。ガラガラと教室の扉を開けたら、すぐにひとりの子と目が合った。


「あ、まりやちゃん…」


つい名前を滑らして、少しだけピリッと緊張が走る。

真っ直ぐに見つめられるから、見つめ返しながらゆっくりと足を動かした。

ふふって優しい笑いが沈黙を破る。


「まりやでいいよ。衣織ちゃん?」

「あ、ありがとう!じゃあ、私も、衣織で…」

「うん、わかった」


花が綻ぶ。そんな風なまりやちゃん…、まりやの元に自然と向かっていた。

仲良くなりたい、というより、もっと話してみたい。

それに教室にはまりや以外誰もいないから、チャンスだと思った。



「…日誌だ」


彼女の机に置いてあるそれに目がいく。


「そう。書くの忘れてて」

「そっか。今日日直だもんね」


黒板の右端に“青木”と書かれていたのを思い出す。


「衣織は?忘れ物?」

「うん。数学のノートとりにきたの」


サラリと名前を呼ばれて、内心ドキッとする。


「あっ、課題出てたよね?忘れてた」

「私もさっき思い出して」


「とってくるね」と言って、自分の机に向かい、青色のノートを手にして再びまりやの元に戻った。