「あ、いた衣織」


ザワザワと騒がしい空間で未緒の落ち着いた声が耳に届く。

キョロキョロと見渡せば、人の波を掻い潜って、こちらまでやってくる彼女が見えた。


「未緒。斎藤先輩に会えた?」

「会えたよ」

「よかったね」

「うーん。それがさ…」


なにかあったのかな?

俯いた未緒の顔はかげっている。

彼氏である斎藤先輩に会いに行ったはずだけど、明らかに元気がない。


「けんかしちゃった……?」


恐る恐る聞いてみると、未緒は首を横に小さく振った。


「ちょっと聞いてくれる?」


「うん」と私が頷いたのを確認して、未緒は「はぁ…」と小さくため息をついた後。


「あのね、先輩がさ、女の先輩と肩組んで写真撮ってたの。どう思う?私、むかっとしちゃって。『もう別れる』って言ってきちゃった」


一気に捲し立てた。


「え、えっと…」


斎藤先輩、肩を組むのはよろしくない気がする…とか。
未緒、別れるって言ったの…?とか。

気になるところは多いけど。