深呼吸をひとつして、インターホンを鳴らす。

すぐにガチャリとドアが開き、「どうぞ」と遥斗くんが出迎えてくれた。


「お邪魔します」

「はーい」

「あっ、遥斗くん…これ。ちょっとだけど」

「えっ、ありがとう。あ、プリンある」

「うん。宿題のお供に…」


私から袋を受け取った遥斗くんはお菓子を机の上に、プリンを冷蔵庫に仕舞って、お茶を片手に戻ってきた。

ソファーに並んで座ると、ドキッとする。

距離が近いからか、家にふたりきりだからか、あの日に重なるからか…。

お茶を一口飲んで心を落ち着かせる。


「衣織ちゃん、髪の毛切った?」

「わかる?」


パッと横を向く。結わいているから気付かれないと思っていた。


「わかるわかる。後ろも短いし、前髪もちょっと短くなってる」


得意げに笑う遥斗くんに私もつい笑みを返す。


「実はね、さっき切って来たばかりなの」

「そうなんだ。可愛い」

「あ、ありがとう。ジュンさんっていつもお世話になってる人が上手で…」

「ジュンさん…」


彼女の名前をポツリと繰り返した遥斗くんがふと黙り込む。