きみのへたっぴな溺愛

ドキドキ。バクバク。

近すぎる距離に心臓から激しい音がどんどん流れ出す。


「…衣織ちゃん」

「…」


優しい声に導かれるように、また顔を上げた。

遥斗くんのキラキラした目に吸い込まれる。

風の音も胸の音も聞こえず、ただただ遥斗くんと見つめ合う数秒間。

いつの間にか彼の顔がもっと近付いて、咄嗟に目を閉じた。

あっさりと唇が重なる。

そっと離れていったのを感じて、薄く目を開く。


「…」

「…」


さっきと変わらない顔の距離に、気づけばまた目を瞑っていた。


「っ…」


あつい…。柔らかい…。

回らない頭の片隅で、そんなことを思った。

ひたすら唇の熱を受け止める。


「…ん…っ……んぅ…」


こぼれた声にハッとしたのは私か、遥斗くんか。

おそらくどっちもで、おもむろに体を離す。


「ごっ、ごめ…ん…」


遥斗くんの焦った声が聞こえて、ブンブンと首を横に振った。


「だ、だいじょうぶ…」

「そう……?」

「うん…」


顔を隠すように俯いて、「えっと…」と会話を探す。