ポカンと口を開けて、瞬き数回。

ドキリとすることをサラリと言われた気がする。


「あのね…ちょっとでいいの、遥斗くんと一緒にいたくて……」

「う、うん…」


そんな可愛いことを言われてしまったら、俺はずっと一緒にいたいけど…。

その想いを口に出る寸前のところで止める。


「なんかね、西側のエレベーターを使えば見回りの先生にバレないみたいだから…」

「わ、わかった…」


どうして知ってんだろ?と疑問に思いつつも、首は自然と縦に動く。


「あ、ありがとう…。じゃあ、点呼が終わった後、部屋出れそうだったら連絡して欲しい…です」

「…うん。連絡する」


「ありがとう」と頷いた衣織ちゃんは「ごめんね、戻ろっか」と言って歩き出す。


その背中を追いかけながら、鼓動ははやまっていく。

この場は賑やかだから、ドキドキが聞こえる心配はない。


…夜、部屋を抜け出すことも構わない。

それより、また夜に衣織ちゃんとふたりっきりになれるってことだよな?

え、どうすんの?

いきなりの決定事項に頭の中では緊急会議が開始される。


『夜にふたりで抜け出すのか…。もう、もっと手出しちゃえば?』

…脳内に再登場した悪魔の声が響いた。