きみのへたっぴな溺愛

あー…なんか幸せだなあ、なんて柄にもなくしみじみ思う。



「あっ、遥斗くん…」

「ん?」

「しゃ、写真…撮りたい」



そう言って、衣織ちゃんは虫除けスプレーを仕舞い、反対のポケットからスマホを取り出した。

反射的に頷く。


「撮ろっか」

「うん!ありがとう…」


カメラアプリを起動させた衣織ちゃんがふと俺に一歩近付いてきた。

ドキッと胸が高鳴る。


「…あ、遥斗くんに…撮って欲しいな…」


ほんの少し首を傾げて、そんなことを言われてしまえば、「わかった」と秒速で口が動いた。


「あっ、でも、俺手ブレ選手権常連選手なんだけど…」

「手ブレ選手権…ふふ、私もよくブレちゃうよ?」

「わかった。俺頑張るね?」


衣織ちゃんからスマホを受け取る。

彼女もブレてしまうと言うのなら仕方がない。

ここは俺が諸肌を脱ごう。

ちょっと屈むと、衣織ちゃんとの距離がさらに近くなった。

ドッドッドッって勢いのいい心臓に、落ち着けと言い聞かせる。