きみのへたっぴな溺愛

勘違いしているけど、微笑ましいから黙っておこう。


「どこ?」と聞かれて「そういえば…」と右腕の存在を思い出す。


「あっ、腕…だいぶ冷えた?」

「うん。もう大丈夫そう」


水道を止めて、すっかりキンキンになった右腕を動かせば、「はい」と白いハンカチが差し出された。



「ありがと。衣織ちゃんのポケットは四次元ポケットだね」

「ふふっ、うん。色々持っておかないとちょっと不安で」


綺麗なハンカチを有り難く借りて、右腕を拭く。

赤くなっていた部分はもう消えていた。

その代わり、俺の頬が赤く染まっているだろう。


「…虫には刺されてないけど、虫除けスプレーも借りとこうかな」

「うん」


左腕を衣織ちゃんの前に差し出せば、携帯用の虫除けスプレーがかかる。


「衣織ちゃんもしておけば?」


悪い男がつかないように。

…そんな俺の魂胆には気付かずに、彼女は「うん」と頷いた。

シュッシュとする衣織ちゃんに、ニコニコと笑う俺。