きみのへたっぴな溺愛

「そっか…意地悪…」


言い聞かせるようにポツリと呟く。

そんな彼女の頭の上に左手をそっと乗せる。

もう涙はこぼれてこない。


「…断ってくれたんだね」

「うん、当たり前だよ。好きなのは…」


一旦口を閉じた衣織ちゃんが目を伏せた。

濡れたまつ毛に思わず息をのむ。

時間が止まった…ように思えたけど、すぐに再度衣織ちゃんと目が合った。


「遥斗くんだけが…好き…」

「…うん。俺も…。俺も、衣織ちゃんだけが好き」

「っうん…」

「あっ…」


またしても衣織ちゃんの目が潤うのを見て、思わず焦りの声を上げる。


「ごめっ…嬉しくて…ありがとう…」

「…うん、俺も嬉しい。ありがとう」


気付けば、左手で彼女の小さな頭を撫でていた。

ふわりと微笑む姿にボソッと「(むし)避けしたいなぁ…」と本音がもれた。


「虫除け?遥斗くんどこか虫に刺されちゃった?」

「えっ、あ…いや…」

「あっ、私虫除けスプレー持ってるよ。私も刺されやすいの」


そう言うや否や、衣織ちゃんはジャージのポッケに手を入れる。