きみのへたっぴな溺愛

「あっ!赤くなってる…」 


俺の右腕を見て衣織ちゃんは顔を歪めた。

それから勢いよくジャーーッと水を出す姿に笑みがこぼれてしまう。

「ありがとう」と赤い部分を水にあてれば、予想以上の冷たさで少しびっくりした。


「大丈夫…?いたくない?」

「へーきへーき」

「火傷って痕残ったりするし…。しっかり冷やさないとだね…」

「うん」


…じゃあ、その間にしっかりお話しないとだね。

って言っても、何から話せばいいのか、悩んでしまう。


衣織ちゃんは心配そうに俺の右腕を見つめたまま動かない。

長いまつ毛や、あらわになったうなじ。

それらに目を奪われていたら、頭の中に天使と悪魔が登場する。


『衣織ちゃんが好きなら、彼女の気持ちを1番に考えるべき。彼女の声に耳を傾けて、それから自分の気持ちをちゃんと伝える。そうしてゆっくり進んでいけばいいのよ』

…と天使が俺を諭す。

ごもっともです。


『理性なんて捨てちまえよ』


…悪魔はひどい。

天使の熱弁に対してたった一言で、俺を惑わす。


どうすればいいのか、気持ちがグラグラと揺れてしまう。