「デート……してない」

「まあ、テストとかあったもんね」

「うん…」


そっか、デート。

確かにバタバタしていて、その発想が抜け落ちていた。

もしかして、夏休みの今がデートに誘う絶好のチャンスなのではないだろうか。

デートしたらもっと仲良くなれるかな…。

目からうろこが落ちる気持ちでいたら、「あ、じゃあ」と未緒の顔が近づいてきた。


「キスした?」

「っと…」


小さなその一言に大きく動揺する。 


「えっ…と…そ、の…」


お魚のように口がパクパクしてしまった。



「…あ、したんだ」

「遥斗くんも男の子だね」 


察したように頷く未緒と、にやにやと楽しそうなまりや。

…教室と、制服姿の遥斗くんと、至近距離にあった少し赤い顔が脳裏に浮かぶ。


「衣織顔赤いね〜」

「かわいいね〜」

「う…」



こんな調子で、話はあんなことやこんなことまで飛び。

日付を超えて夜も深まった頃、布団に潜った。



…だけど、やっぱり。

濡れ髪の遥斗くんと川島くんの一言が、閉じた瞼の裏で再生される。


ドキドキ、モヤモヤ。

ぐるぐると回る気持ちを抱えてしまえば、なかなか寝付けなかった。