「…あれ、言ってなかったっけ?元カレ……夏生なんだよね」

「えっ。そうなの…?」
 


驚いて目をパチクリとさせる。

今度は小さくもはっきりと「夏生」と聞こえた。


「そうそう。未緒には言ったかな」

「そうなんだ」



女の子の事情で部屋にいる未緒を思い浮かべつつも、まりやを見る。


「他の人は多分知らないけどね。…だから秘密ね?」


そう笑ったまりやの顔が寂しそうで、コクリと頷いて口を閉じた。



「あ、やっときた」


チンと音を立ててエレベーターのドアが開かれる。


「そうだ。夜は衣織と遥斗くんの話聞かせてね」


ふたりしか乗っていないのに、まりやは私にコソッと耳打ちする。


「話って…そんな…」

「気になっちゃうな」

「…私はまりやと未緒の話が、聞きたいな」

「ふふっ、じゃあ順番に…だね?」

「うん」


きっと盛り上がるだろうから、今夜は眠れないかも。