「髪…まだちょっと濡れてるね」


さらっと自然な手つきで髪を掬われる。


「あ、遥斗くんも…。遥斗くんの方が濡れてるよ?」

「うん。部屋で乾かそうと思って」


見上げた先でポタっと。

真っ黒な毛先から雫が落ちた。

細められた目も。少し持ち上げられた口端も。濡れた黒髪も。

遥斗くんの全部が色っぽくて、艶やかで…。


ふれたい。ふれて欲しい。


って、私なに考えてるんだろうっ……。

胸の奥がドンとうるさく音を立てる。

我に返って「あ…じゃあ、はやく乾かさないとだね」と口を動かす。


「そうだね」

「またね」



赤くなったであろう顔を隠すように俯いて、遥斗くんの隣をタタっと早足で進んだ。
 

「あっ、まりや…」


あつい顔を上げた先には、彼女がまだいた。

どうやらエレベーターが来ないらしい。



「衣織。もういいの?」

「う、うん…。大丈夫。そういえば、まりやって、夏生くんのこと山田くんって呼んでるんだね」


さっき言い直していたのが気になって、なんとなく聞いてみた。