「あっ…」


と声が出てしまったのは多分、遥斗くんの髪が濡れていたから。


「あ、衣織ちゃん。…と青木さんも」


くるりと振り返った遥斗くんが微笑んだ。


「オレ先行ってんね」


ポンと遥斗くんの肩を叩いた夏生くんは、なぜか私たちの横を通り過ぎようとする。

その時、スエットパンツからパサっと紙切れみたいなものが落ちた。



「なつ…山田くん。落ちたよ、これ」



まりやが長い腕を伸ばして、それを拾う。



「ん?あー…どうも」


受け取った夏生くんはスタスタと歩いて行ってしまう。

そこにいつもの笑顔はなかった。


「あ、じゃあ、衣織。あたしも行ってるね」


夏生くんからまりやに視線を移すと、私が頷くより先に歩き出していた。

遥斗くんの横を通り過ぎて、エレベーターの方へと向かうまりや。

その背中を見ていたら、遥斗くんの腕がゆっくりと伸びてくる。