きみのへたっぴな溺愛

すっかり楽しそうなお母さんのペースに飲み込まれてしまう。

エレベーターを降りた私たちは、ルンルンな背中に黙ってついていく。


「お、お邪魔します…」


丁寧に靴を揃えた遥斗くんが家に足を踏み入れた。


「ごめんね、遥斗くん。こんな…急に」

「いやっ、全然。ありがとうございますって言うか…。衣織ちゃんのお母さん…なんか、元気な人だね」

「ああ、うん。すごいパワフルで…」



…そう。


お母さんは基本的に明るくて、元気。

朝早くから夜遅くまで勤め先の病院にいて、帰ってこない日も多い。

だから疲労が溜まっているはずなのに、帰宅したお母さんに疲れは微塵も感じられない。

…多分、感じさせないようにしてくれている。


最近は顔すらも合わせない日々が続いていたから、ホッとしたのも事実。

ちょっと強引なところもあるけど、お母さんの笑顔を見ると自然と安心する。


「ふんふ〜ふん♩」と鼻歌交じりにキッチンに立つお母さんから視線を遥斗くんに移す。

とりあえず、お茶を渡して、リビングのソファーにふたりで腰掛ける。