…そういえば、どうして遥斗くんは私の名前を呼んでくれないの?

そんな疑問を思い浮かべながら、目の前の横顔をじっと見る。

彼は視線を逸らしたまま、固まってしまった。


「イヤ…?」


小さかったけど、拗ねたような声が出てしまい、焦り始める。

すると遥斗くんも慌てたように、こちらを向いた。


「いっ、嫌、とかじゃなくて…。え、むしろいいの…?」

「うん…」


いい…というか、他の誰でもない遥斗くんに呼んで欲しい。


「…や、あのね、俺も呼びたいけど呼べない…っつうか、なんか恐れ多い…みたいな」

「おそれ…?」


首を傾げたら、遥斗くんは俯いて「い、い…」と小さく口を動かした。

ドキンドキンと私の心臓も動く。



「い…い……いおり、…ちゃん」

「…うん。ありがとう!」
 


ポツンと落とされた声に、胸の奥がキュッとなった。

目は合わなかったけど、黒髪から覗く耳が赤く染まっている。

それを見て私の頬もじわじわと赤く、熱くなるのがわかった。