「…のさん…」

「………」

「…しのさん」

「………」

「いおりちゃん…」

「………ん」


うっすらと名前を呼ばれた気がした。

泣きたくなるくらい、やさしい声に。

ふわっと。

近くで気配が動くのを感じて、眠りから覚めた。


「あ…」


パチリと目を開けて、ぼんやりとした視界がだんだんとクリアになっていく。


「っ…」


遥斗くんの笑顔が両目いっぱいに映る。

「え…」と少し掠れた声がもれた。


「おはよ」

「おはよ…う」


いつの間にか横の壁にもたれていた頭を起こす。

パチパチと瞬きを数回すれば、完全に焦点が遥斗くんに合う。



「わたし…寝てた?」

「うん。あっ、でも俺も今来たから…」

「ほんと…?あ…補習お疲れさま」
 


「ありがと」と目を細める遥斗くんに、「補習どうだった?」 聞いてみる。

頭も徐々に覚醒していく。