「頑張って」と伝えようと席を立つ。

遥斗くんの肩を、後ろの席に座る夏生くんがユサユサ揺らしている。


「あ、衣織ちゃん」


気配に気づいたのか、顔を上げた夏生くんと目があった。

その腕はまだ遥斗くんの肩をガッチリ掴んだまま。


「あ、星野さん…」


遥斗くんも首をぐるっと動かして私を見上げる。

上目遣いは心臓に悪いと、この間学んだばかりなのに、ドキッとしてしまった。



「残念だよねー?せっかく一緒に勉強したのに…」


夏生くんが私に言うから、「とんでもない」と首を横に振る。


「数学、難しかったし…」

「まあ、遥斗は衣織ちゃんのことばっか考えてて、勉強なんて手につかなかったから、仕方ないねー」


視線を遥斗くんに移した夏生くんが、ニヤリと笑った。

再び俯いた遥斗くんが「うん…」と小さく頷く。



「あ、否定しないんだ。寒気したわ」

「教室クーラー効いてるもんな」

「ちげーよ、バーカ」


ふたりの軽快なやり取りが始まる。