「えーっと、なんだ。夏休みだからと言ってハメを外し過ぎないように。林間学校もあるし、体調には気をつけること。…そんなもんか?」


大きくもなく小さくもなく。空調の音に負けないくらいの声のトーンで田中先生は言った。


「あ、それから。補習あるやつは忘れんなよ?」


その言葉を合図に、呆気なく高校1年生の1学期が終わった。
 

明日から夏休み。

教室のあちこちで、「待ってました!」と言わんばかりの歓喜に満ちた表情がうまれる。


…のだけれど。

とある一箇所からはズーンとした空気。

廊下側の席。後ろから3番目。

そこに座ってピクリとも動かない遥斗くん。

私の席からはちょうど俯く彼の横顔が見える。

憂いた表情も素敵。


…じゃなくて、遥斗くんはなんと。
今日から1週間補習になってしまったのだ。

数日前のテスト返しの日。
目を丸くして、それから子犬のようにシュンとした姿はなかなか印象に残ってる。

普段あまり見ない表情にキュンとした…なんてこと、落ち込んでいる本人には言っていない。