「じゃあ、分からないとこあったら星野さんに聞いていい?」

「あっ、うん…。頑張ります」

「ん、俺も頑張ります」


お互い頷いて、勉強がスタートした。

…始まったのはいいけれど。


「これって…合ってる?」

「あっ、これは、こっちの公式を使うの」

「そっか。ありがと」


教えるとき、至近距離にある顔とか。

時折当たる肘とか。

意外と丸みを帯びた文字とか。


遥斗くんの全てに気を取られてしまう。

これではドキドキして勉強どころではない。

落ち着け、落ち着くんだ、私。
と必死に言い聞かせる。


「星野さんって文系理系どっちもいけるの?」

「あっ、うん…。いけるって言うか、どっちが得意とかあんまりなくて…」

「すごい。二刀流だね」

「う…」


「うん…」と小さく頷く。

二刀流だなんて、カッコいい言い方をしてくれて、口元が自然とゆるむ。


「遥斗くんは…なにが得意?」

「俺は…しいて言うなら地理とか?とにかく数学がダメ」

「そっか。公式を覚えるので一苦労しちゃうよね」

「そう、それ。とりあえず公式を覚えないと」


遥斗くんはむっと口を尖らせた。

数学が苦手。ということさえも私の胸を高鳴らせるには十分で、本格的に困ってしまう。