夢…?


そう思わなくもないけれど、「好き」だという言葉を耳にしたし、口にもした。

「付き合ってください」と真剣に言う声に頷いた。

遥斗くんが、むにーと彼自身の頬を引っ張る姿に笑みが溢れた。

ゴミ箱を持ってくれた彼と、一緒に教室に戻った。

遥斗くんは自転車を押して、ふたりで歩いて帰ってきた。

…全部ぜんぶ覚えている。


遥斗くんと恋人になった。

その事実を頭でしっかり理解すると、心臓が激しく動きだす。

体温もグングンと上がるのがわかる。

確かめるようにほっぺを触ると、ものすごくあつい。

ぽろっと引っ込んでいた涙が再びこぼれた。

嬉しさと、少しの恥ずかしさと。

気持ちを伝えられた安堵感と…。


あ、そうだ…。

「洗って返すね」と言って受け取ったハンカチをスカートのポケットから取り出した。

紺色のそれを見つめる。

たしかな現実を知って、案の定、涙は止まらなかった。